経済嫌いなエンジニア

『イノベーションのジレンマ』に感じた違和感を明らかに
イノベーションのジレンマ』がらみでダメな人を見つけてしまったので、上記リンクの偉い研究者の先生を批判します。
データを分析してある現象やシステムに対する一般的傾向を指摘すると、その指摘が優れたものであるほど「人間はこんな行動規範を持っていない」みたいな前提条件批判をしてくる人がいる。その典型といえると思う。
議論のロジックという面から見ると、初めて自動車を発明した人に向かって「これは空が飛べないところがダメだね。これからは空を飛ぶ乗り物も開発しなきゃ」といってるみたいな話。
(余談だけど『科学する麻雀』に対する批判もこの種のものが多かったのを思い出して世の中どこも似たようなものだなと思った。そして養老孟司といい藤原正彦といい畑の外を語った理系の話は、…なのが多いっていう話でもある)

どうもクリステンセン氏は、企業で働くすべての人は報酬への期待で動くという仮説に基づいている節がある。実際は、企業で働く人たちはお金や地位だけを求めているのではありません。特に研究者やエンジニアは、自己実現とか、自分の奥底から沸き起こってくる内発的な衝動のようなものにつき動かされていることが多い。それを理解していないのではないか。

まずいえることは、『イノベーションのジレンマ』で述べられている主張はあくまでデータを解析した結果の傾向を基にしており、その部分に関しては個人の行動規範についての何らかの仮定を持ち込む必要は全くないということです。つまり研究者がどのような動機付けで行動していようと結論には影響しません。
従って、感じた違和感とは、結論とは無関係な大企業がイノベーションをうまく活用できない"理由"についての部分だと思われますが、この場合「結論は正しい。だが理由が気に食わない」という話に僕は何の生産性も感じません。
あえてその理由について議論するとしても、研究者が金銭的報酬だけで行動していないのは周知の事実です。ただそこまで考慮した分析に使えるまともな人間の行動モデルが現状では存在しないから、仕方なく金銭的報酬を基準に仮説を考えているだけでしょう。クリステンセンを馬鹿にしすぎ。「なんかー、近代経済学ってきらいだなー。こころがないよなー」とか愚痴ってるようにしか聞こえません。
記事自体が本の宣伝だから仕方がないという見方は当然成り立つけど、売れてる類書の話を無理矢理して論理が破綻する(もしくは論点がずれる)のは販売戦略上も良くないのではないかと。まあこの先生の論理性をも超越したテクノロジーに対する深い愛は感じられるけど、そういうのは飲み屋でお願いします。